黒(~第六章まで)のライトニングと白のライトニングは別個体か同個体か

黒 p.195

 ライトニングは吹っ飛び、バウンドし、グラウンド端の茂みに飲み込まれ、葉や枝を巻き散らしネットを揺らした。

黒 p.196

「物理的な衝撃も吸収できるのね」

 ライトニングだ。アーデルハイトは下がろうとした足を引き留め、身構えた。

 微笑んでいる。太鼓を背負っている。血が流れていない。コメカミも綺麗なままだ。気絶していないというのは百歩譲って納得するにしても、怪我が治っているというのはどういうことなのか。

 議題は黒第六章でライトニングが別の個体(♡9)と入れ替わったか、或いは戦闘の時だけ別個体で一貫して♡9だったのか、第六章以前の出来事に触れている描写、合点がいく描写、「潜入後に勝手な動きを見せるようになった」のは最初から「特別ななにか」になりたい憧れ(決定版にあるまじき想定外の自我)を持っていたのかクラスメイトとの触れ合いで成長したのか自分の代わりはいくらでもいる記憶を失ったのが機転か等々について考える。

 まず怪我だけでなく戦闘中に外れたはずの太鼓まで元通りなのは単純な治癒では説明がつかず、茂みに吹き飛ばされたライトニングと待機していたライトニングが入れ替わったとしたら納得できる。でも特定のポイントに吹き飛ばされないと成立しないので負けるのが想定外だと紙一重すぎるような気がしなくもない。

 ライトニング=ジョーカーがもし存在するなら遠隔で復活した可能性もある。ただ魔法のポテンシャル的に、

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 ボルケーノ(没)(今見るとこの人が白の襲撃者ポジションになる予定だったのが分かる)も加えて作中のネームドプリンセスは全員「2」なのに対しライトニングだけ「4」。ジョーカーがいるシャッフリンは「5」でいないシャッフリンⅡは「4」と数字的にはシャップリンセスにジョーカーが存在しないように一見思える。決定版故に下位ナンバーが存在しないとか燃費の悪さ差し引いてるとかだと話は変わるけど。一つの可能性としてジョーカー説も一応念頭に置く。

 吹き飛ばされた方が死亡ではなく朝まで気絶コースだった場合は立ち去った時だけ別個体で他場面は一貫して♡9という解釈も可。

「本来であればね、私とランユウィアンド出ィ子。この二方面から魔法少女学級に関わる予定だったんだけど……あなた達は探索で、私は主に妨害工作で」

「それは、つまり……夜中にアーデルハイトと戦ってたやつっすか」

 訊きながら出ィ子の方をちらと見た。特に反応はない。訊いてはまずいことではなかったようだ。ライトニングは眉根に少々の皺を寄せてスプーンを口元へ運んだ。

「そう、あれもその一つね」

 一班にアイテムを貸し出して支援し、二班に向かわせていたのも、今思えばその種の活動だったのだろう。

「気まずいと思うやろ普通は」

「どうして?」

「夜の学校でバチバチやりあったやん」

「そうだったかしら」

「ライトニングの頭ぶん殴ってノックアウトしたやん」

「私の記憶にはないけど」

「殴られたせいで記憶飛んだか」

「確かに夜の学校であなたと会った日はあったけど。あの時の私は元気いっぱいで学校から出ていったでしょう」

ほら、私は一度アーデルハイトにしてやられたでしょう。正直、強さの序列とかどうでもよかったんだけど、いざ負けてみるとこれが案外悔しくて。

「以前敗れた相手……まあ私はあんまり負けたと思っていないけど、敗れた相手とホムンクルス戦では協力して、そして今日また一対一で戦って、勝利する。メピスが持ってくる漫画みたいだと思わない? 私が主人公って感じで」

 入れ替わったとしたら黒第六章以前の出来事に触れているのに違和感が生まれるが、これは情報共有していたで済む話。

 アーデルハイトとの会話はピンポイントで記憶が改竄されているように見えたけど、別場面で負けを認めているため単に意地になっている会話とも捉えれる。

 決定版だったはずのプリンセス・ライトニングが、魔法少女学級潜入後に勝手な動きを見せるようになった。

 学級活動には大した興味もなく、達観しているというか浮世離れしているというか、とにかく冷めている生徒という印象は、ここにきて大きく変化していた。

 これはカルコロに見る目がなかったというより、ライトニングが変わったのだろう。どれだけ大人びているようでもまだ中学生なのだから、クラスメイトと触れ合う中で成長していくのは当然だ。むしろあるべき姿だ。

「特別な……なにかには……なれなかった」

 ♡9には明らかに三代目が想定していなかった自我が生まれており、病室での会話で妨害工作が命令通りであることは語られているので、「勝手な動き」が指すのは創立祭を開催させようと頑張ってた所とかが含まれると思う。理由は創立祭が楽しそうでやってみなきゃわからないから。アーデルハイトに感化されて必殺技を言っていたのも同じく「楽しそう」。テティの表現で言う所の欲望に忠実。

 ラズリーヌ陣営にも拘わらず田中愛染さん(♡9)が勝手な動きをするようになった解釈はいくつか分かれる。

・元々他集団とは違う意思を持った存在、若しくはライトニング集団全員が平凡嫌い。

・学校生活、クラスメイトとの触れ合いで変化が生じてランユウィの退院に喜んだり露骨に怒ったり嬉しがったり悔しがったり協調性を持つようになった(カルコロ先生と同じ見解)

スノーホワイト転校後に記憶を失って自分はシャップリンセスではない=代わりが利く存在ではないと認識が変わったから

 上記のどれであっても一ついえるのは、新たに現れたライトニングの「あら、こんにちは」の涼しげな態度的には大差感じないけど、「早く逃げなさい」は明確に他集団と違う意思なので♡9が特異の存在という認識は変わらない。

「あなたも変わりましたねえ」

 口にした直後、躓きかけた。見れば、ライトニングが足を止めている。

「変わった? 私が?」

 カルコロを食い入るように見詰め、その双眸は窓から差し込む目差しを受けてきらきらと光り輝くようだった。カルコロはこれ以上ないくらい気圧されながら「いえ別にそんな大した意味では」と言い訳し「とにかく足を動かしましょう」と誤魔化した。

 ライトニングは誤魔化されてくれなかった。足を動かしながらも口は止めない。

「変わったってどんな風に? いつ頃から変わったように思ったの? いい意味での話よね? 悪い感じではなかったし。どんな理由で変わったと思ったの?」

 矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。感情を表に出すことが滅多にない彼女にしては珍しく、とにかく嬉しそうだ。

 そして、それらを踏まえて読むこのシーンが大好き。特別ななにかになりたかったからこそ変わったと言ってもらえたのが本当に心の底から嬉しかったんだろうな。「正義の味方」「主人公」と非平凡ポジションを自分に当て嵌めようとしていた時点でその節は出ていた。

 「いつ頃から変わったように思ったの?」が重要な点で、本人に変わるタイミングがあったのを自覚しているのがこの台詞で分かる。黒第六章以降(正体に関する記憶を失っているためあくまでぼんやり)、触れ合いでの変化、記憶を失った所等のどこかで。

 まとめると黒第六章で入れ替わった可能性は高いが、同個体の線もまだ残っており、現段階で断言できる程の情報は揃ってない。

 もし入れ替わってるとして潜入後に勝手な動きを見せるようになったら「入れ替わったから勝手が変わった」と考えるのでは?とも思うけど、それだけ普通なら入れ替わっても大差ないくらい同一の存在とも言えて、結論として丁度良い塩梅の両方の線を残す形で書き留める。ライトニングが何らかの要素を加えられたハイブリット的存在って予想まではしてたのにそこにシャッフリンって可能性は1ミリも考えてなくて度肝抜いた経験を活かして出来るだけ可能性を見据えた形で締めます。終わり。