女王と探偵のティータイム感想

 昨日(6月8日)の10周年当日、JOKERSの電子版あとがきで語られた遠藤先生の宿願がついに果たされました。まさかのネタがあったのは後述するとして、まず触れたいのは今回の主役の一人であるグリムハート。

 我儘、よく怒る、部下を蹴る殴る叩く、泣きながら許しを請うテンペストの首を刎ねよと指示。初出のJOKERSでの傍若無人っぷりは凄まじく、後に登場するレーテ様との比較も相俟って、決して嫌いではないけれどアクスタのような選ぶ機会では候補に挙げ辛い、今まで自分にとってそんな立ち位置だった。

 ただ大前提として、FANBOOKと電子版あとがきで語られているように、グリムハートの欠落している部分は過去に何かあったとか環境とか本人の性格とかオスク師の魂由来とは関係なく、エゴイストが「知性」「神性」「威厳」「人格」「とにかく様々なもの」を犠牲に生み出した純然たる被害者で何があっても心が折れないように「作られている」(態々鍵括弧で強調されてる)のは忘れてはならない。これを踏まえるか否かで節々の描写で受ける印象は大きく変わる。

p.27

 男達は肉食獣の群れを思わせる動きで包み込もうとするが、人数を増やしても触れることができない。

p.28

 一応鼓動もあるし、呼吸もしているようだ。

 無礼者でしかない一般人には手を出さず(ディティック・ベルのような思い遣りではなく単に「相手にしてない」だけだと見受けられる)、ミスティルージュへの攻撃は殺害には至っていない。石を投げれば山が砕ける程の現身の破壊力で放たれた平手打ちで死亡しないのはミスティルージュの耐久度若しくは愛への執念もあるかもしれないけど、ここは「手加減した」と解釈。

JOKERS p.373

 グリムハートは怒り狂った。

 ハートのエースを蹴り、殴り、文机に顔面を叩きつけ、壁に向かって投げた。原型が留まっているあたり、意識せず手加減したのだろう。まだ理性は残っている。

 その証拠に本編の怒り狂ってる時ですら手加減をしている。とにかくプクに対抗できるのであれば邪知暴虐の王であっても構わないように作られた存在でありながらこのように最低限の寛大さが宿っているのは魅力の一つと認識しています。幼少期のラギが見た本来のオスク師(降霊した御霊)は穏やかで気品溢れて優しい人物らしいから魂由来なんだろうか。

p.6

 グリムハートは別にレーテのことを嫌っているわけではない。彼女は常に一歩下がってへりくだり、グリムハートを立てている。

 自分の方が強いのに自分より劣ってるレーテが評価されてることに苛立ちつつ、それはそれとしてレーテは嫌いではないから当然本人に当たる訳にもいかずこうなったら凄い体験談を聞かせて関心させてやろう!の思考回路好きです。意外といえば意外だけど、「礼儀知らずは相手にしないよ」は裏を返すと礼儀を重んじている人は相手するとも捉えれるので、レーテ様のように礼儀を弁えて成果を収めてる人物に対しては一定の評価をしているの人物像通りに思える。

pp.11-12

「クビヲハネヨ」

「すいません、意味がわからないのですがどういうことなんでしょう」

「そういえばそうであった」

「うわっ、びっくりした。普通に話せるなら初めからそうして……」

 ここ好き。JOKERS初登場時のクビヲハネヨ連呼もうっかりしてたんだろうな。こういう思慮の欠如こそ作られている所以なんだろうなと。

p.25

 人間だ。本来なら魔法少女の相手ではない。だがこの部屋、この霧、魔法がかかっている。心拍数が上がる。動悸に息切れ、身体が火照って上手く動かない。いっそ男達を受け入れてしまえば、などという不穏な考えが頭によぎる。

 話題の軸を短編の本筋に移して、ミスティルージュの魔法はどうオブラートに包んでもセンシティブに配慮してもエッチで桃色だと思わざるを得ない。エッチすぎる。

 元ネタは間違いなくあれで、10周年のタイミングにやるネタかとツッコミもさることながらやっぱりエッチすぎるとしか思えない。だってこれはもう何といっても……エロい。ディティック・ベルの貞操は無敵の女王によって守られましたが本編で結局お持ち帰りされたので因果が収束した。

p.26

 男達の声はどこまでも楽しそうだ。全く楽しくない。楽しくないはずなのに、内側から「楽しもう」という思いが湧き上がる。抵抗する力が弱まる。身を委ねろとなにかが叫ぶ。ベルは必死で暴れようとするが、相手は人間だ。全力で振りほどいては怪我をさせる。いやこれも自分に対する言い訳なのか。思考が桃色に侵されていく。

p.26

 ベルは歯を食い縛った。私は探偵だと肉体に言い聞かせる。

 もはや作品の特性といっても過言ではない絶対的な洗脳は実際はその魔法と相手によって千差万別ではあるものの、強力な作用という点では一貫しており、恐らく例外ではないミスティルージュの魔法にこれだけ抵抗し、己を鼓舞するディティック・ベルの意思の強さは本人の最期も踏まえて流石だと感心した。作中で確認できる範囲では非常識な人物が多い魔法少女において常人寄りに思えるけど、半裸の男性達の肉波をかき分ける姿をモーセの海割りで例える感性はまさしく焼死体を鎌倉ハムステーキ程度の焼かれ具合と例えたそれで、やっぱりちょっとイカれてる部分あるよなとは思う。一応試験で「襲撃しようと計画」と黒い部分もある。その後の情けなさもまたベルっちっぽい。

 

 意外な人物の意外な活躍と展開とエッチでてんてこ舞いな短編、大変面白かったです。今の所ラツム様がカナとあまり変わりないように見受けられて、そういえば電子版あとがきで割と常人寄りと語られていることからも、もしかしたら人格的に大きな変化はないのかなと希望的観測をしてる("カナ"が好きなので)

 10周年記念短編第一弾ということは第二弾にも短編が……?と期待し、今後の展開を引き続き楽しみにしています。改めまして、10周年おめでとうございます。