魔法少女育成計画「赤」感想

登場人物SD絵紹介ページ

 死人が最後の方にまとめられているのは分かっても憑融組が6人色分けされているのは初見の時に気付けず、後からプシュケも憑融されていた事実に衝撃を受けた。

 憑融は魂を入れると赤で明記されたことで肉体的な死であっても魂的な死ではないと分かり一先ず安心したのも束の間、「寿命が極端に縮む。それらは些細な問題だ」は些細な問題とは思えずスノーブラックが姫河小雪を抱えてる挿絵には息を飲まざるを得なかった。魔法少女育成計画はシリーズ通して洗脳の味に飽きない美味しさがある。

 

ライトニングとアーデルハイト

赤 p.19

「この子は……殺さないで、いい。私……が、勝たないと──」

 心湧いた台詞。白で「早く逃げなさい」と忠告し、赤で「この子は殺さないでいい」「私が勝たないと」と拘っていた相手が自分を守り、自分を信じて、目の前で死なれたライトニング(❤9)の表情と感情は計り知れない。それでも推測するなら「勝ち逃げされた」かなと思うものの、全然別の感情の可能性も十分ある。計り知れないからこそ「背負ったライトニングがどんな顔をしているのか見ることができない。それが最も大きな心残りだった。」のアーデルハイトの最期の地の文に共感を覚える。

 アーデルハイトが死亡したのは本当に悲しくて、読み進めている最中は往生際悪く「生きてないかな……」と生存を期待していたけれど、作中で3回アーデルハイトが死亡したことを念押し(カナの魔法確認、報告、最終章のメピス視点)されたことで本当に本当に死んでしまったんだな……とがっつりへこんだ。

 でも、悲しさと同じくらい痺れる気持ちも抱けたので、死亡して悲しい止まりではなく死亡して悲しいけどかっこよかった……!と心に強く刻まれた。いつかライトニング(❤9)視点でアーデルハイトについて語られる描写が読みたい。

 

カナ

赤 p.21

「触れるな下郎」

 短編とQUEENSの電子版あとがきでラツム様がどういう人物像か既に描写されているのに、それでもこのシーンには驚かされた。ブルーベルの前例があるため。そして直ぐにカナはカナと分かって安心。コミカル描写として使用されていた漫画台詞引用が本人証明に活きるの良い。

 併せてエネルギー問題の原因が赤序盤で判明。グリムハート(王権の象徴)とプク・プック(神性の象徴)が元ネタ通りと捉えた場合、カナことラツムが自分達こそ消え去るべきだと思い悩んでいたことを考えると「将来の受難である死の象徴」で東方の三賢人に当て嵌まってるとも見受けられる。一作目序盤の増えすぎた魔法少女を半分に減らす発言の建前は土地の魔力が枯渇するからってファヴが考えたであろう嘘(土地の魔力って概念自体は本当っぽい)だけど、エネルギー問題がこの作品の大きな根底部分だったことを考慮すると一作目序盤の嘘が核心部分に触れてるの趣深い。

 グリムハートとプク様との相対的な好印象抜きでもカナはクラスメイト想いのかっこいい現身で、上に立つ者としては電子版あとがきに書いてある通り弱い面が玉に傷だったかもしれないものの、倫理観に違和感を感じる人達が目立つ中で徹頭徹尾まともさを感じる心強い存在だった。

 

出ィ子とプシュケ

 比較的あっさり退場してキャラ単体で見れば物悲しいけど誰もが劇的に死亡できるとは限らないからこそ誰がいつどうやって死ぬか分からないドキドキ感が存在してる訳で、このドライさとエモい死のバランスと塩梅が一番性に合うと再認識。出ィ子とプシュケはクリスマス短編で描写量が少し増え、ねむりん然りラピュ然り本編で退場したキャラが短編で補われる感じもまた作品の特色だと感じる。

 

ピティ・フレデリカVSオールド・ブルー

 規模は変則的且つ多発するアルティメットプリンセスエクスプロージョンの見目の派手さの下で針の穴を通すような打ち合いと情報処理をこなす初代の化け物っぷりと、シリーズ通して散々活躍してきたプキン剣を含む手札の数でキャパ越えを狙い攻め落とすフレデリカとの対決に魔法少女同士の超常バトルと能力バトルの旨味を存分に堪能できた。この直後にカナとも戦いフィジカル面での頂上決戦が始まるテンポ感も良い。二代目然りレーテ様然り負けた方の格も高かったと感じさせる戦闘描写が本当に上手い。この戦闘を筆頭に、孫を失った過去、一人一人の⚡を愛でている上で駒として使い捨てる心のぶれなさ等々の今まで不明瞭だった初代の人物像とバックボーンが一部明らかになって自分の中で格段に株が上がった。

 

オールド・ブルーについて

restart(後)p.161

 残った勝者は記憶を書き換えられて「通常の魔法少女試験を突破した」という偽りの記憶を持って魔法少女となった。

赤 p.95

 十年以上、彼女の心は血を流し続け、まるで止まることを知らない。

 クラムベリーの事件発覚前から怒りや悲しみを原動力にしている描写を見るに初代にはアカネのように曖昧にしろそうでないにしろ最初の試験の記憶が残っていたように見受けられる。何故クラムベリー存命時に直接復讐しようとしなかったのか実は暗に動いていたのかまだその時点では実力不足だったのかは不明。

 本質を見抜く魔法で記憶を何やかんやして忘れずに若しくは思い出せたのか、アカネのように強い憎悪を持っていたから記憶を保持できたのか。後者ならそれほどまでにオールド・ブルーにとって孫は大事な存在で、失った悲しみと怒りは並大抵ではなかったことが窺えて今までの「いざとなれば身内を切り捨てる底知れない強者」という印象から「孫想いのお婆ちゃん」という情報も重なり何とも言い様のない切ない気持ちになる。フレデリカがスノ育でいっていた「大人で魔法少女になれてしまう稀有な人材は、非常に優れた才能を持っていることが多く」は魔法少女になった時からご高齢だったはずの初代の強さ的にその言説通りだったと思える。才能だけでなく文字通り血の滲むような努力もあって超魔法少女的身体能力の持ち主と打ち合える実力になったんだろうなと。

 

ビリジアングリーン

 遺跡の苔でビリジアングリーンってそういうこと!?になった。マジカルダンジョンバスターズのゲームやりたい。

 

テティとメピス

赤 p.257

「ほら」

テティのミトンを握り、これではどうも感触が悪いとミトンの中に手を入れてぎゅっと握った。

 初読時にぼろぼろ泣いたシーン。

 テティがメピスに手をきつく握ってもらって登校していた時期が「小学校低学年」なのと、魔法少女歴が4年(黒 p.71)=魔法少女になったのは小学3~4年生の頃のはずで、魔法少女の魔法は本人の精神によって決まることが多いと公式で言われているのを加味すると幼少期のメピスの行為がテティの魔法をグッと握る魔法にした、及び魔法少女名自体にも影響を及ぼした可能性は十分にあり得そうで、その上でかつて助けてくれたメピスをその魔法によって今度はテティが助けたと考えるとフレデリカは「テティのミトンに偶然守られ命を繋いだか」と捉えていたけど例え偶然でも因果を感じる偶然。

 そのテティのミトンで命繋いだ上での「それ、飲まないほうがいいんじゃないか?」がブチ上がる。メピス以外の二班は全滅したけど皆誰かを守っていて「気合。なめられるな。二班」の通り全員最後まで最高に気合の入った班だった。

 

クミクミ視点(第九章)

 ページ数で言えば3ページくらいの文量ながらも赤で一番印象深い視点。最初はホラーに感じたクミクミ視点が懸命にクラスメイトを助けようとするクミクミの思考で徐々に涙腺にきて、最後の文章を「魔法少女は奇跡を起こしてなんぼだ」で締めて実際にやり遂げたの心熱くなる。章題が二年F組なのも熱い。

 クミクミとリリアンが全体に抗えたのは同化直後且つ二人で一つになれば強いって発想とクラスメイトを思い遣る気持ちと二班としての気合って精神論と魔法少女ならではの奇跡に加えて組み立てる魔法と繋ぐ魔法を持つ存在同士だから合わせれたって論理的というかマジカル的な解釈も可能なのも好き。

 

ピティ・フレデリカ

limited(後)p.39

「君子は豹変すという言葉を知っているかね?」

赤 p.157

「君子は豹変すというでしょう」

 地味に好きなリマインド描写。黒の背負うシーンや白の狼には狼云々の漫画台詞が今作で活きたり、フレデリカの最期が無印ラストとスノ育ラストの意趣返し的結末だったのもしみじみするものがある。「勝っても負けても喜ぶことができる得な人」とFANBOOKの遠藤先生コメントで言われていたフレデリカが喜ぶことができない完膚なきまでの「負け」で退場したの気持ちいい去り方でした。

 フレデリカが倒された時が一番「一区切りついた」と感じ入り、今後フレデリカ以上の相手が登場するのか不安にもなる。眼球コレクターや爪コレクターが出たとしてもフレデリカを越えれる気がしない。そう思える程に愛着の持てる存在だった。

 

スノーホワイトリップル

 スノーブラッドになったことも含めてスノーさんの物語は赤で終わったと読み終えた時は捉えていたけど、スノーホワイトの物語は終わったがスノーブラッドの物語はまだ描写されるって頓智の効いた展開になる可能性も十分あり得そうで今の所そこら辺はどうなるんだろうなあという認識。どうなるんだろう。今後のシリーズの挿絵でスノブラさんのビジュアルが公開されたらうおおおおとはなるけど。白と黒のコントラストに比重を置いていたアリスからしたら複雑ではあるかもしれない。兎の足が赤でも空気だったのはもうスノ育で役割を終えたってことなんだろうか。

 スノーホワイトの物語は無印第一章「ブラック&ホワイト」から始まり、最後の戦いの終わり方は意趣返し的決着且つ黒(メピス、リップル)&白(カナ、テティのミトン、スノーホワイト)で最後のスノブラ視点の白黒魔法少女も赤最後のファル含めて見事に黒&白で終わったと捉えると感慨深い。自分が贔屓目でエモい解釈を無理にしてるのか客観的に捉えられてるのか自分では分からないが少なくとも自分の中ではそう思う。白と黒できっと綺麗だから。

 

今後の魔法少女育成計画

 赤発売前はシリーズ自体が終わる可能性に緊張していたものの、「魔法少女育成計画という大きな物語がまだ終わったわけではありません」と公式で明言されて作中でも続きそうな気配は十分に感じ取れたので、今後も更なる飛躍を夢見ることにした。朗読劇第3弾やrestartアニメ化楽しみにしてます。